トロ戦書籍まとめ



※己の備忘録を兼ねた、読んだときの個人的な感想に基づくおすすめ本たちです。※


■まとめ・抄訳系 (伝承をまとめたもの)

『トロイア戦争全史』
松田治訳 講談社学術文庫(2008)

トロイア戦争を始まりから終わりまで全部を一冊にまとめてくれたスーパーありがたまとめ本!
詳しくはどの本のどこを読めばいいの?と思ったら、わりとこまめに注釈を入れてくれているので調べやすいです。
もくじでネタバレかましてくるのはご愛嬌、絶版なのが悲しいところ。図書館などでどうぞ!

『ホメーロスのイーリアス物語』 ★はじめて読むのにおすすめ!
バーバラ・レオニ・ピカード著 高杉一郎訳 岩波少年文庫(2013)

イリアスをかなりわかりやすく、かつ忠実にまとめた作品。
冒頭と巻末には、イリアスには書かれてない、トロイア戦争の顛末と、登場人物の解説もついた新設設計。
登場人物たちの細かい心理描写等も加えられていて、物語としての入れ込みやすさが爆上がりしてます。
が、同じシーンを原典で読むとまた違った印象に見えてきたりするのが、バリエーションの多い物語群の魅力でもありますのでぜひ最終的にはイリアスも!

『イリアス トロイアで戦った英雄たちの物語』 ★個人的な趣味でとてもおすすめ
アレッサンドロ・バリッコ著 草皆伸子訳 白水社(2006)

抄訳系に入れるか物語系に入れるか迷ったけど、話の流れはイリアスにとても忠実なのでこちらのくくりに。
イタリアで朗読劇の台本として書かれた作品。各章ごとに登場人物の一人称で書かれていてとても読みやすいうえ、イリアスに描写のない付け足しの部分はフォントが変えられているというスーパー親切設計!ディオメデスがめちゃくちゃかわいい
巻末の、何故人は戦争モノに惹かれてしまうのか?といった内容の添え書きもとても面白い良書です。

『まんがで読破 イリアス・オデュッセイア』
イーストプレス(2011)
 
とりあえずほんとにざっくり概要だけ知りたい!というときにおすすめ。ほんとにざっくりだけど!!
そこを飛ばすの?!ってくらいのざっくり感なのにディオメデスの存在が省かれていないし、彼がパリスに射られるシーンまでばっちり書かれているのでわたしにとっては大変良書です。黒髪つり目でとてもかわいい。


■古典系 (古代ギリシャ人とか、それくらいの古い時代の人がかいたやつ)

『トロイア落城・ヘレネー誘拐』
コルートス/トリピオドーロス著 松田治訳 講談社学術文庫(2003)

トロイア戦争の発端と、戦争がいかにして終結したか、最初の事件と最後の事件それぞれを描いた短編二本立て。
「ヘレネー誘拐」ではパリスの審判がいかにして行われたか、名乗りを上げた三女神からの賄賂へのパリス君の反応はもちろん、アキレウスのご両親の結婚式での神々の様子も書かれており、軍神様の意外な一面が垣間見える良作。
「トロイア落城」では有名なトロイの木馬の建造シーン、木馬の詳しい形状、いかにしてそれがトロイアに運び込まれるに至ったかなどが書かれます。 どちらも短いのでさくっと読めるし、注釈も充実しています!

『ホメロス イリアス(上・下)』 ★とてもおすすめ
松平千秋訳 岩波文庫(1992)
 ※一番手に入りやすい&(個人的に)読みやすいバージョン
ヨーロッパ最古の叙事詩にして、現存するトロイア戦争の物語たちの根幹ともいうべき作品。
アカイア勢がトロイアの浜辺に到着して10年目のとある日から、トロイア総大将ヘクトルが倒れるまでが描かれます。
抄訳では味わえない、登場人物同士の会話のやり取りや戦況の動きがとても面白い!みんな案外よくしゃべる。戦闘中に。
話の筋を知ってても何度読み直しても面白いっていう、意味不明すぎるスーパー大名作なのでいつか一度は読んでみていただきたい一品。各歌ごとの概要を見て、読みたいところだけ読むのも手。

『クイントゥス トロイア戦記』
松田治訳 講談社学術文庫(2000)

紀元前三世紀ごろの詩人クイントゥスによって描かれた、「ホメロス以後のこと」等と便宜上呼ばれてきた作品。
その名の通りイリアスの続き、ヘクトルの葬儀が終わったあとから、トロイアが陥落するまでの様子が描かれます。
ペンテシレイア、メムノン、エウリュピュロスなどのトロイア側の援軍たちや、アキレウスの息子ネオプトレモスの活躍を読むならこれ!

『ホメロス オデュッセイア』
松平千秋訳 岩波文庫(1994)

トロイア陥落後、それぞれ岐路についたアカイアの面々のうち、オデュッセウスを主人公にした帰国譚が描かれます。
キュクロプスやセイレーン、スキュラなどおなじみの怪物が続々登場し、イリアスと比べるとファンタジー感が強い印象。
トロイア戦争後のメネラオス&ヘレネ夫婦、ピュロスのキューティーじじいネストールとそのご一家や、アガメムノンたちアカイアの面々の後日譚が拝めます。

『英雄が語るトロイア戦争』
フラウィウス・ピロストラトス 内田次信訳 平凡社ライブラリー(2008)

これまで紹介してきた本たちとは一線を画す、「アンチホメロス的」トロイア戦争モノ。
トロイア戦争に参加し、トロイア上陸時最初の戦闘で亡くなったアカイア側の英雄プロテシラオスの証言をもとに、トロイア戦争の真実を語るぜ!という作品。黒幕オデュッセウス説は激熱です。

『ディクテュスとダーレスのトロイア戦争物語』
岡三郎訳 トロイア叢書 (2001)

中世ヨーロッパにおいて、ホメロス以上に信用のおけるトロイア戦争の記録として重要視された作品。
実際にトロイア戦争に参加した人の手記を訳したもの、という形式で書かれていて、この本に書かれた出来事を基盤に、以下のカテゴリの「中世的物語系」の作品群が作られていきます。
両話とも、アルゴー船の冒険でおなじみのイアソン達による第一次トロイア攻めから第二次トロイア戦争の終結まで、ディクテュスではさらに主要王侯たちの後日譚や死までが書かれています。


■中世的物語系 (中世ヨーロッパにおいて、ホメロスの作品に代わり定説、正史扱いを受けていたとされる作品。
                     ディクテュスとダーレスの派生ネタ系 とかだとあまりに長すぎるかなって)


『トロイア滅亡史』
グイド・デッレ・コロンネ著 岡三郎訳 トロイア叢書(2003)
 
ディクテュス以下略と同じく、イアソン達による第一次トロイア攻めから第二次トロイア戦争の終結、主要王侯たちの後日譚や死までががっつり書かれています。
ホメロスの話は荒唐無稽すぎ!私は事実に沿って、トロイア戦争の真実を書き出します!とか言ってるわりに、ケンタウロス出てきたりヘクトル兄さんの遺体が大変なことになったりします。主要王侯たちの容姿や性格の描写が出てくるのですが、イリアスとはだいぶイメージの違うキャラ付けを与えられたりしています。
ちょっといつもと違う味付けの英雄ちゃんを拝みたい人におすすめ!軽率に重傷を負う王侯達が見られるよ!

『トロイルス』
岡三郎訳 トロイア叢書(2005)

ブノワやグイドなどの反ホメロス的な物語のなかから、トロイルスとクレシダの恋愛に焦点を絞って描かれた作品。
寡婦であるクレシダと、死ぬ死ぬ詐欺(ほんとに死にそうだけど)連発の繊細すぎるトロイルスくんがくっつくまでもすごく長くて大変ですが、じっくり書かれているぶん、シェイクスピア版よりクレシダの心の動きがわかりやすくてしっくりくるかも。恋に情熱的なディオメデスくんの、クレシダへの熱心なアプローチが最高にかわいい。

『トロイラスとクレシダ -シェイクスピア全集23-』
ウィリアム・シェイクスピア著 松岡和子訳 ちくま文庫(2012)

上記作品たちをもとに、シェイクスピア先輩の手で脚本として書かれたもの。問題作と呼ばれているそう。そうなのか。
蜷川幸雄さん演出のと鵜山仁さん演出のと二つ見ましたがどちらもアカイア勢(というかアキレウス界隈)がめちゃくちゃ
ヤンキーだったの面白かったです。実際ちょっとみんなセリフ回しとかやんちゃでかわいい。
イリアスでもごちゃごちゃ言ってぶんなぐられてたディオメデスの伯父さんテルシテスがとてもおいしい役回りで登場。


■小説・よみもの系 (物語として再構築されたやつ。現代人によるトロ戦もの)

『トロイア戦争物語』
バーナード・エヴリスン著 喜多元子訳 現代教養文庫 (1990)

ギリシア神話小辞典を書いてらっしゃる方のトロイア戦争本。普通の抄訳ものかと思いきや、劇作家さんでもある作者さん独自の話運びで展開する、様々な伝承を見事にちゃんぽんしたスーパーエンターテイメント作品。
アキレウスが参戦を決めるところから、トロイアが陥落するまでが描かれます。
神々にも英雄達にも生き生きしたキャラクター性が与えられ、読み物としてのおもしろさは抜群です!
貞淑なヘラさまのあんなシーンや、各方面からのディオメデスくんの愛されっぷりは見ものです。とてもかわいい

『アキレウスの歌』
マデリン・ミラー著 川副智子訳 早川書房(2014)
 
パトロクロスの一人称視点で、彼の幼少期から死までを描いた海外小説の日本語訳。
コンプレックスだらけのパトロクロスが美徳だらけのアキレウスと出会い、最初はそんな恵まれた彼に反感を抱くものの……というあらすじがすでに特定の方の心をつかむ具合の良作。実際海外圏のトロ戦ファンフィクはだいたいこの作品のもの。
中盤から終盤にかけて大変気持ちが暗くなる展開が続きますが、最後のシーンの情景の美しさで読後感はさっぱり!

『トロイアの歌』 ★個人的な趣味でとてもおすすめぜひぜひ読んでほしい 絶版だけど
コリーン・マクロウ著 高瀬素子訳 日本放送出版協会 (2000)

プリアモスの父ラオメドンの時代、ヘラクレスらによる第一次トロイア戦争から、アキレウスたちの第二次トロイア戦争を経て、トロイアの滅亡までを描いた超大作。章ごとにいろんな登場人物たちの一人称視点で展開するため非常に読みやすく、章の終わりには主要人物の相関図もまとめてくれているという親切っぷり。
オデュッセウスとディオメデスくんがめちゃくちゃかわいいので何はなくともぜひ読んでください

『イリアム』『オリュンポス』
ダン・シモンズ著 酒井昭伸訳 海外SFノヴェルズ(2006)

トロイア戦争の話を目的に読もうとして読むと「おれはいったい何を読まされているんだ…?!」となる名著。
謎の生物が全ての仕事をこなしてくれるため何不自由なく暮らすことのできる「古典的人類」の住む世界、木星のあたりからやってきた生き物のような機械「モラヴェック」の住む世界、オリュンポスの神々が再現するトロイア戦争を観測する仕事を与えられた、すでに一度死んだはずの学士が拠点とする火星の世界、と、三つの視点から描かれる物語がどんどん絡み合い…
という感じの、説明しててもよくわからなくなるものすごいSF作品。エンディングがとてもすき。
アキレウスとヘパイストスの義兄弟コンビが個人的にツボです。

『ペネロピアド』
マーガレット・アトウッド著 鴻巣友季子訳 角川書店(2005)

タイトル通り、オデュッセウスの妻ペネロペイアを主人公にした物語。オデュッセイアの最後に求婚者たちと一緒に殺された12人の女中たちにも焦点を当ててあります。似た者同士のオデュッセウスとペネロペイア夫婦の、賢いが故の苦悩というか、悩みというか。救いのないオチが最高。

『エピタフ 英雄たちの墓標』『トロイの女』『スパルタの秋』
星川清香著 築地書館(1987,1988,1993)

それぞれクリュタイムネストラ、アンドロマケ、ヘレネに焦点をあてて描かれた、戦闘に参加しない人々の戦争物語。
一見華やかな男たちの戦争物語の裏で営まれ続けていた非戦闘員の戦いや苦難が満ち満ちてます。アイギストスの描かれ方がすごく好み。






(2018.06.05)


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